誓~天才演技者達の恋~
卓也は、窓を少し開ける。
そして冷たい空気を車に取り込む。
「きっと、俺は。
記憶喪失だとか、元は白野百合亜とか関係無く、菊花ユリアを好きになった。
第一、この前までは知らなかったワケだし?
間違っては無いでしょう。」
「開き直り?」
「悪く言えばそうかも知れないケド。
でも良く言えば、前に進んでる。」
「理解不能」
灰田の言葉に、今度は大声で笑い出す。
卓也は、美星堂の広告を見た。
Yuriaが等身大以上で、ビルに貼られている。
「恋だけは...小六の時のように、素直にいきたいワケ。」
「....」
「後悔して、死にたく無い。
だから俺は...歌原社長にクビって言われる覚悟で言った。
たとえ、世間に笑われても...
俺は後悔しない“恋”を最後にする。」
卓也は路地裏に入った瞬間、いきなりドアを開けた。
灰田は急ブレーキを踏む。
「卓也!?」
「ちょっと報告しに行きたいんだよね。
歌原社長には謝っといて。」
「はぁ!?」
「ほら、家まで記者は押しかけないだろうしさ。
ちょっと....母さんの剥いた林檎...食いたくなった」
伊達眼鏡をかけて、卓也は黒いワゴンから降りる。
灰田は無理やりでも降りて、卓也を連れ戻したかったが、後ろから車が来てしまった。
「ごめん、灰田。
でも我儘くらい....いいだろう?
俺にはもう。時間が無い」
卓也はそう言うと、自分の実家に向って歩き始める。
そして、白野邸を通り過ぎる。
ゆっくりと人差し指を、チャイムへと近づける。
「息子が帰ってきましたよ」
そう言うと、物凄い勢いで、玄関のドアが開いた。