誓~天才演技者達の恋~
「卓也?」
「相変わらず、演技上手いよね。俺が来ること分かってたハズでしょう?」
卓也は家に入ると、コートを脱ぎ捨てた。
そして伊達眼鏡を取る。
「ちょっと、どうして?」
「何?歓迎してくれない訳?」
麻紀は首を振る。
そして、エプロンを着けると、キッチンに立った。
「今、報道陣が凄いのかな?と思って。」
「あぁ。うん。凄いよ」
リビングに包丁の軽やかなリズムが響く。
ためしにテレビをつけて見ると、今はニュースの時間帯。
Yuriaが白野百合亜っていう話題と
卓也が破局宣言の話題。この二つで持ちきりだ。
「卓也。あなたの決断が、周りの人に批判されようと...私はあなたとYuriaちゃんを、全力で応援するわ」
「ありがとう。母さん」
麻紀は林檎を丸ごと、テーブルの上に置く。
卓也は目をまん丸にしたが、すぐさまかぶりつく。
麻紀は冷蔵庫から、たくさんの食材を出す。
「母さん」
「何?」
「俺、ギリギリまで仕事しようと思う。
倒れたら引退する。
いや、世間には無期限の休暇とでも言うつもり。」
麻紀は頷くと、たまねぎをみじん切りにする。
たまねぎを切ることで、泣く事を誤魔化している麻紀。
そんな母親に背中を向け、卓也は涙をこぼした。
「死にたくねぇー」
卓也は小さく呟くと、床に寝転んだ。
芯だけ残った林檎が、床に落ちる。
「オマエ、なかなか美味かった」
卓也はそう言うと、目を閉じた。