誓~天才演技者達の恋~
ユリアが自分の過去で悩んで、苦しんでいる頃。
明日香は卓也の病室に入ろうとしていた。
“集中治療室”と大きく書かれたドアを過ぎ、麻紀が座っている傍まで歩く。
「あ、明日香ちゃん...」
明日香は頭を下げると、麻紀の隣に座った。
何も言わない時間が長く続く。
明日香は決心すると、口を開けた。
「卓也が倒れたって聞いて..ビックリしました。」
「....」
「私、今からニューヨークに行こうと思ってたんですよ。」
「....?」
「私は母様のこと、尊敬してますし。
霧島ジュエリーを大切に思っています。
でも、私が将来やりたいことは...霧島ジュエリーの社長になって、宝石を眺めることじゃない。
私の小さな夢は、卓也や百合亜と同じじゃなくても、テレビに出ること。
“芸能人”として仕事をしたいんですよ。」
明日香は、照れくさそうにそう言うと、透明な窓ガラスの向こうで、機械に繋がれている卓也を見た。
そして「醜くなっちゃって」と呟いた。
「音楽が昔から好きで、ピアノとかバイオリンとか...楽器類はすべてやりつくしたんですよ。
だから次は、声に挑戦したい。
歌の勉強をしたい。って思ったんです」
「明日香ちゃん?」
「あの馬鹿が一瞬でも目を覚ましたら、言っておいてもらえますか?
私が帰ってくるまで、死ぬなよ。と」
明日香はそう言うと、麻紀にお辞儀をする。
麻紀は涙で化粧はグチャグチャ。
それでも精一杯の笑顔を見せる。
「麻紀さん。
歌原由梨のこと、許してあげてください。
彼女が一瞬でもやったことは、最低だけど...
でも、許してあげてください。
きっと歌原由梨がいなきゃ、百合亜と卓也は再会できなかった。
きっと歌原由梨がいなきゃ、私が麻紀さんに恨まれていた。」
明日香はそう言うと、麻紀を抱きしめた。
「では、行って来ます」と言いながら....