誓~天才演技者達の恋~
朱美がホテルから出ると、鎌足が立っていた。
あと10分後くらいに、巻貝が降りてくるハズだ。
「何か?」
「落ちたもんだな...土居ィィィィ」
「土居ですって」
朱美は地下鉄の駅へと足を進める。
鎌足は、無言で5歩後ろを歩いていた。
「......」
「......」
朱美が立ち止まると、鎌足も足を止める。
「何なんですか!?笑いに来たの?オマエはそこまでして、白野百合亜のことを言いたかったのか?って言いたいの?」
「違うな」
「じゃあ、何?」
鎌足は、朱美を見つめること数秒。
カメラのシャッターを押した。
「もし俺が、ただの金儲けのために、記者をやっていたら...この写真を公にだすよ?巻貝誠司の不倫相手って」
「んなの、覚悟の上です」
「覚悟の上?なら土居ィィは記者、辞めればいいと思うよ。」
「はぁ?!なんで、あんたにそんなこと」
鎌足はカメラを朱美に渡す。
投げて渡すもんだから、朱美は焦りながらのキャッチだった。
「菊花香織がどんな覚悟で、Yuriaとして芸能界に送ったか分かるか?」
「.....」
「辛かったと思うぜ?
香織は、白野百合亜に戻って欲しかった。それだけだと思う。
演技を見て、感動して、菊花ユリアで生涯を終わらせるのは、可哀想だと思ったんだろう。
彼女はきっと、芸能界に入らなかったら、今も平和に生きていると思う。
思い出しそうな気持ち悪い気分も、記者に追われる嫌な日々も、味わう必要が無かったに違いない。
香織は誰よりも傍で見ている。
香織は数年前“覚悟の上”で、菊花ユリアを崖の先に立たせたんだ。
落ちたら一生帰って来れない、海の崖に。
オマエはそれを聞いても、巻貝との不倫は覚悟の上だなんて、甘ったれたこと言えるのか?」