誓~天才演技者達の恋~
鎌足はそう言うと、勝手に店の冷蔵庫を開けた。
朱美は、雪奈に謝る。
「す、すみません」
「いえ、いいのよ。剛史がどんな人間か、私は分かりきってるから」
剛史は、冷蔵庫からプリンを取り出すと、口に入れた。
雪奈はお湯をワザと、鎌足の足らへんにこぼす。
「ってめ!熱いだろうがッ!!」
「五月蝿いな、耳元で騒がないでくれる?剛史」
雪奈は、朱美の前に珈琲を置いた。
飲んでみると、たいして甘くない。
想像していた以上に、美味しいし、ほろ良く苦味もある。
「美味しい」
「本当?良かった。良かった。」
雪奈は幸せそうに笑うと、鎌足にも珈琲を出す。
しかしその珈琲には、砂糖が浮いているのが分かる。
溶けるハズの砂糖が溶けていない。
「ったく、昔から俺にはこの砂糖珈琲だよな」
朱美は笑み浮かべながら、鎌足の顔を見る。
「んだよ、ニヤニヤして。気持ち悪」
「あの...雪奈さんのこと、好きなんですか?」
すると鎌足は、あまりの直球さに吹いた。
雪奈は大爆笑しながら、床を拭く。
「朱美ちゃん。剛史は伯守ちゃんしか興味が無いんだから、聞いても無駄」
「はくもり?」
鎌足はため息をつくと、テーブルに空のマグカップを置いた。
朱美は『誰です?』という視線を送る。
「ここに来た理由は、俺の過去だったな」
「えっ?えぇ...まぁ、そうですけど」
雪奈はいきなり真剣な顔になって、カウンター席に座る。
「伯守は...菊花香織のこと」
「えっ?」
「10年前くらいまで、俺らは婚約者だったんだよ」