誓~天才演技者達の恋~
香織は警戒心を露わにするが、鎌足は気にしない。
むしろ、逆に興味をそそられた。
「俺に絡まない子、初めてなんだよね」
「はぁ...」
「伯守香織って、いい名前だね。なんだか芸名みたいに華がある」
香織は、鎌足...剛史の言葉に感動した。
“香織”っていうのは、祖母が決めた。
将来、自分の娘が離婚することを前提に。
つまり祖母は、香織の母と父が離婚することを強く望んでいた。
もちろん香織の母が反対するはずも無く、離婚はこの時、成立目前にあった。
「本当はね。花っていう字...苗字が良かったの」
「花の入った苗字?」
「ご、ごめんなさい。いきなり会って...こんな話」
走り去ろうとしていた香織を、剛史は捕まえる。
香織は、不思議な顔をしながらも、少し嬉しそうだった。
「話して?伯守のこと、知りたいんだ。」
「えっ?」
「いつも悲しそうにしているキミのこと...俺は誰よりも知りたいんだ」
ドキンと心臓が跳ねる。
剛史は、香織の髪の毛に手を伸ばす。
「なんだ...ちゃんと可愛いじゃん。」
「////////」
肩まで以上にある黒髪。
クセッ毛なのか、すこしフワフワとしている。
香織の眼鏡に手を伸ばして、剛史は眼鏡を取った。
「うん、芸能人になりそうな感じだ」
「なりそう...?」
「だって、オマエの夢は...大舞台に立つことだろう?」
香織は言葉を詰まらせる。
だって香織は、仕方なくこの世界に入った。
夢なんて、何一つ無い。
「ごめんなさい。帰ります」