誓~天才演技者達の恋~

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ユリアはカーテンの隙間から、下を見下ろしていた。

何週間経っても、記者達の数は減らない。

逆に増えたようにも感じる。


「なんなのよ、もう」


今日のユリアは、いつもよりも落ち着いていた。

精神不安定に陥っているユリア。

時々、花瓶を投げたりと暴れたり。

いきなり窓から飛び降りようとしたり。

医者も看護士ももちろんの事、香織や賢斗は戸惑いを隠せない。


「同情の優しさなら、いらないのに」


ユリアはすでに、香織の存在も、賢斗の存在も覚えていない。

毎朝、リセットされて目を覚ます。

ユリアはそれに対し恐怖感を覚えるが、誰かを傷つけるなら、自分を傷つけたほうがいい。と考えていた。

自分が“何かの有名人”ということは分かっている。

毎日したから聞こえる『菊花ユリアさん、顔を見せてください!』という声。

そして看護士から言われる名前。


「私は本当に...菊花ユリアなの?」


ユリアはそう呟くと、病室を飛び出した。


「下の人なら、何か私を知っているかも」


ユリアはエレベーターに乗り、記者団のところへ行こうとした。

記者達が自分の敵ということは、知らない。


「凄い...私を知ってる人がたくさん...」


下にいる受付たちは、すぐにユリア担当の階に電話をする。

「大変!!菊花ユリアさんが記者達の所へ行こうとしてるわ」

ユリアはそんな大人たちの騒ぎも知らず、病院の出入り口に向う。


「オマエは馬鹿か!?」


ユリアの右手を強く掴んだ一人の男。


「誰....?」


警戒するユリアに、彼は優しく微笑んだ。
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