誓~天才演技者達の恋~

全員、文の始めはすべて“これ”だった。

自殺するような言葉。

でも『生きていく』と書いてある。

それだけで、病室内の空気は安堵に包まれた。

そして、明日香は百合亜が明日香のためだけに打った文を読む。


「霧島明日香へ...まるで他人行儀じゃない」


『霧島明日香へ。

あなたは、百合亜の初恋に背中を押してくれました。

自分だって、卓也が大好きなハズなのに。
私に怒鳴りつける勢いで、自分の気持ちを封印したことでしょう。

私は、素直な明日香が羨ましかった。

私は、演技者じゃないと素直になれなかったから。

世間に知られた白野百合亜じゃなきゃ、素直に物事を言えなかったから。

だから、明日香と病院で会った時、懐かしい気持ちに包まれました。

その時は怖くて、気づかないフリ、知らないフリをしましたが。

でも、記憶を忘れていたとしても、明日香のことは何処かで覚えていたかったんだと思います。

菊花ユリアの時も、心なしか、霧島明日香に惹かれていました。

もちろん、同性の女性として。
カッコイイあなたを、尊敬していました。

きっと明日香のことだから、卓也を殴ったか、平手打ちをした後だと思います。

でも、卓也は悪くない。

私が勝手に事故に遭って、勝手に記憶を失って、勝手に記憶喪失でも生きていける。だなんて思ったから。

それに、卓也が私に言ったことは、少なからず正論だから。

そのことに、きちんと答えを出せない私が悪いの。

卓也と賢斗。
私は百合亜とユリア、二人の時にそれぞれ恋愛をしてしまいました。

取り返しのつかない事をしてしまいました。

償っても、許してもらっても、心から明日香や卓也に会えません。

また会いましょうなんて言いません。

明日香、幼い時の思い出をありがとう。
私のために、恋を譲ってくれてありがとう。

そしてごめんなさい。』


明日香は泣きながら、でもしっかりと口に出して読んだ。

卓也は明日香の顔を見ずに、室井や香織を見つめる。


「じゃあ、今度は俺が」


室井は息を吸うと、一気に読み始めた。



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