誓~天才演技者達の恋~
『室井和人さんへ
本当に、室井さんには感謝をしなくちゃいけませんね。
Yuriaを、そして過去を知らない菊花ユリアを支えてくれました。
私は何度も、何度も室井さんに迷惑をかけました。
きっと今の状況も、室井さんにとってはイイ迷惑ですよね。
Yuriaのマネージャーであったアナタは、私の過去をどう思って接してくれたのでしょう?
卓也と共演する時は、いつも顔面蒼白だった覚えがあります。
でも演技が終了すると、誰よりも褒めてくれました。
マネージャーと言うよりも、Yuriaを心配するよりも。
もしかしたら、心の底では、私がいつ目覚めるかを心配していたに違いありません。
室井さん。
ありがとう。
私は演技のしない世界へと、行きたいです。』
香織は目を見開いて、室井を見ると、自分の携帯を読み始めた。
『菊花香織さんへ
花坂果歩社長の我儘で、私を迎え入れてくれた香織さん。
養女という形をとっていなかったのは、私がいつ戻ってもいいように...ですよね?
香織さんの正式な子供じゃないけれど、菊花ユリアにとって、母親は紛れも無く、香織さんです。
白野百合亜は、白野家の。
菊花ユリアは、菊花家の。そうですよね?
私をYuriaとデビューさせる時、香織さんの覚悟は、量りしきれません。
演技者として、私を舞台の上に立たせてくれてありがとうございました。
Yuriaの時と、白野百合亜の時。
見える世界は全然違くて、斬新なモノばかり。
でももう、演技はいいです。
どの“ゆりあ”でも、私は演技が出来る気がしません。
たとえ他の人になっても、演技は出来ません。
どうして私、演技なんかやっていたんだろう。と今、答えが見つからなくて困っています。
もし果歩さんや、師羅監督に出会う機会があったら伝えてください。
Yuriaも白野百合亜も、死んでしまったと。
もう私はこの先、何があっても演技は出来ません。
ごめんなさい。』
香織は携帯を握り締めたまま、病室を出て行ってしまった。
室井もその後を追う。
由梨は携帯を明日香に投げると、病室を出て行ってしまった。
明日香は両手でキャッチをすると、メール文を読んだ。