誓~天才演技者達の恋~

『城崎賢斗へ

賢斗、ありがとう。

本当に心から感謝しています。

私は、賢斗にたくさん救われました。

記憶を失っても、誰かを好きな気持ちだけは失わずに済んだ。

菊花ユリアという一人の人物だったら、確実に、迷わずにあなたの元に飛び込むのに。

そう簡単に、物事は進まないみたいです。

プロポーズも、嬉しかったんだと思います。

あの時は、もう一人の自分の存在を心なしか感じていて、苦しい次期でもありました。

でももし、あの時賢斗を選んでいたら、プロポーズを受けていたら、きっと後悔した。

それだけは変わらないという自信があります。

ユリアとして賢斗が嫌いなワケじゃない。

でも私は、ユリアであって、ユリアじゃない。

中学校の時から、嘘を積み重ねてくれた賢斗。

罪悪感でいっぱいだったと思います。本当にごめんなさい。

賢斗は、キスをしてくれても、それ以上のことはしてこなかった。

記憶が戻った時、卓也の胸に飛び込むと思っていましたか?

それは、私には出来ません。
ううん。出来なかった。

卓也が好き。
でもそれは白野百合亜の自分。

賢斗が好き。
それは菊花ユリアの自分。

白野百合亜の気持ちなハズなのに、いつの間にか、菊花ユリアが自分の中に出来上がってしまっています。

あなたは、菊花ユリアの傍にずっといてくれた人。

だからこそ、手放せない気持ちと、手放したい気持ちでいっぱいになる。

記憶が無くても辛くて、あっても辛い。

だから、私は賢斗を忘れたい。
我儘で、自己中でごめんなさい。

私も忘れたいから、賢斗は菊花ユリアを忘れてください。

だから、もう会うことは無いと思います。

会ったとしても、たとえ会っちゃっても...

次に会うときは他人で。

私も、私で、どの“ゆりあ”でも無く生活するので。

菊花ユリアより。』


あっさりと書かれているようで、書かれていない。

菊花ユリアとしての思いが、きちんと伝わってくる。


「菊花ユリア。彼女はこのメールを最後に、その名前を口にすることは無くなるんだろうな」


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