誓~天才演技者達の恋~

賢斗はそう言うと、病室から出て行った。

明日香も居心地が悪いのか、売店へと向う。

一人病室に取り残された卓也は、携帯を握り締めた。


「んだよ。俺には日比野卓也へ...って無いのかよ」


卓也には、全員と同じ冒頭に『ごめん。ありがとう』と付け足されただけだった。

水玉の携帯を床に投げつけると、卓也は唇を噛む。


「あっけねぇー。俺ら」


百合亜はもう、卓也なんてどうでもいいのだろうか?

いいや、違う。

言いたいことが多すぎて、謝りたいこと、感謝したいことが多すぎて、言葉に、文に出来なかった。


「百合亜。今何してる?オマエはどうしたい?」


そんなことを言っていると、床に投げられた携帯が光る。

慌てて見ると、実の母の麻紀からだった。


「真紅デパートに、百合亜ちゃんみたいな子がいるよ」


卓也は声も出さずに驚くと、病室から急いで出る。


「すごい痩せたみたい。
何も食べてないんじゃ無いかしら?」

「っ......」

「捕まえとこうか?」

「いや、いい。逃げられても困る。母さんはそいつを見張っててくれ」


キリキリと痛む胸を押さえながら、卓也は階段で下まで降りる。

記者がいるのをお構いナシに、卓也は正面玄関から飛び出した。

今までの卓也とは、顔つきが全然違う。

記者達は通り過ぎた後、卓也だと気づいた。

慌てている記者達を横目に、土居だけはエールを送っていた。


「日比野卓也...」


土居はそう呟くと、真っ赤なバイクを走らせる。

そしてある細道に入ると、目の前のヤツにヘルメットを投げた。


「!?あ、あんた。記者の!?」

「土居朱美よ。卓也くんの身体じゃ、この状況はきついわよ。乗って、後ろ」

「でも....」

「記事にはしない。これくらいはさせて?」
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