誓~天才演技者達の恋~
ユラユラと、車スレスレで歩いている。
卓也はバイクから降りると、大声で叫んだ。
しかし、土居は右手で卓也の口を覆う。
「今、ここで大声を出したら、大変なことになる」
「でも!!」
「第一、何て彼女を呼ぶの?彼女は、他でも無い人になることを望んでるんじゃ無いの?」
土居はそう言うと、卓也からヘルメットを奪う。
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
「.........」
「あいつがどう思ってようと、あいつは白野百合亜として中一前まで生きて、菊花ユリアとして、そこから今まで生きてきた。
どれも、あいつじゃないのかよッ!!」
確かに、間違っちゃいない。
ただ記憶が無いぶん、白野百合亜と菊花ユリアは、正反対とも言える様な性格だった。
でも演技者としての時は、どちらも同じ。
天才で、舞台の上でキラキラしてた。
「でも彼女は、そのすべての自分を否定してるんでしょう?」
土居の言葉が胸に突き刺さる。
卓也は百合亜を目線で追っていた。
「あいつは、今、孤独なんだ」
「?」
「菊花ユリアの時は、記憶が無くても、賢斗や香織さん、室井さんがいたんだろう?
菊花ユリアとしての支えは、十分なほどいたし。
白野百合亜の時は、明日香や花坂果歩さんが傍にいた。
でも、白野百合亜も菊花ユリアも記憶上にあるアイツは...
今、誰を頼っていいのか分からないでいる。
だから俺は、白野百合亜を、菊花ユリアを救ってやりたい。
俺は唯一、どちらのアイツも知ってる気がするから。」
卓也は土居にお辞儀をすると、百合亜が立っている歩道の、反対側まで走る。
「チッ、信号...」
卓也は舌打ちをしながら、まん前を見ると、信号を渡りたいのか、百合亜が呆然と立っていた。
「百合...亜...」
百合亜は卓也を見つけると、少し笑った。