誓~天才演技者達の恋~

「みんな、百合亜の目の前で?」

「お母さんもお父さんも...おじさんも...」

「おじさん?」


百合亜はハッとすると、龍牙の傍を走り抜けた。


「あっ、待って」


龍牙は百合亜を追いかけながら思う。

百合亜が記憶を失った理由は、両親が死んだことでも、悲惨な事故に遭ったことでも無くて。

―――目の前で身近な人が、息を引き取ったからでは無いか。

飛行機事故の唯一の生き残り。

それが負担だったハズが無い。

百合亜は誰よりも演技が好きで、卓也が好きだったのだから...。

でも今、また目の前で身近な人が命を失ったら...。


「あいつはまた...?」


龍牙は街の真ん中で足を止める。

百合亜のことを考えていたら、本人を見失ってしまった。


「白野百合亜は、失う時...目の前で失うのか?」


その時、大型のビジョンがニュースに変わる。


『病院からいなくなったんでは?と伝えられていた、女優のYuriaさんが、今日、一週間以上も前から行方を眩ましていることが分かりました。』


「おい...冗談だろう?」


『本日、YuriaさんはCMなどの契約会社に出向き、事情を話す予定でしたが、その会社には菊花プロダクションの社員のみが出向き、そしてそこからの調べで発覚しました。』


携帯のニューステロップや、号外の新聞はYuriaのことでいっぱいだった。

龍牙は携帯を握り締めてビジョンを見る。


『菊花プロダクションからはFAXで各局に届いており、その文面からは、捜索願を警察に届けた事と、Yuriaはもう、演技をするつもりは無いと言っている。と書かれていました。』


「Yuria!?」


『そして最後には、お騒がせして申し訳ありません。急ではありますが、Yuriaは無期限の休暇から、引退ということにさせていただきます。

と書いてあり、Yuriaさんの影響でさまざまな所から、波紋の声が広がりそうです』


龍牙は目を見開いて、ただビジョンを見ることしか出来なかった。
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