誓~天才演技者達の恋~
茉莉はそう言うと、二階に駆け上がっていく。
「なんで茉莉ちゃんは、杏莉の妹だって公開しないの?」
そう。
杏莉に妹がいることも、茉莉に姉がいることも世間に知られているが、それが杏莉であって、茉莉であることは知られてない。
実際、杏莉に関しては苗字を知られていないし、杏莉という名が芸名なんじゃないかとも言われている。
茉莉は、小阪茉莉という本名で活躍しているが。
「私、もともと“杏莉”でモデルやってたじゃない?」
「うん」
「それが運を効したのよ。何故かって言うとね。小阪姉妹だ!って騒がれないから」
杏莉はそう言いながら、遠くを見つめる。
百合亜は杏莉の視線にある写真を見つめた。
「私の母も父も、芸能界の第二世だった。両親の両親が有名モデルだったの」
「そう、だったんだ」
「だから、母も父も辛い思いをしてきたわ。普通にデビューにしても、コネだとか賄賂とか騒がれて」
「.......」
「茉莉にはせめて、普通の子として、地味なところからスタートさせたかったみたい」
両親も、両親の両親も本名では活動していなかった。
杏莉は単に、プライベートとの区別をつけたいがために“杏莉”
茉莉は、親や姉の力を借りなくても活躍出来ると証明するために“小阪茉莉”
「私のほうが売れている。それは茉莉も理解しているわ」
「......」
「でも小阪姉妹とされると、いつも私に注目がいく」
「......」
「それは、人気があるとも言わないし、活躍してるなんて言えないわ」
茉莉は茉莉の実力で、杏莉は杏莉の実力で。
「茉莉がモデル界に来て、私のとこまでくれば、世間に教えてやってもいいわ」
「そう」
「えぇ、自慢の妹ですもの。誰の力も借りず、モデルとしてやろうとしてるんだから」
杏莉はニコリと笑うと、ソファーに腰掛けた。
百合亜も正面の椅子に座る。
「さて、話してもらおうかしら。
白野百合亜、菊花ユリア、Yuriaの顔を」