誓~天才演技者達の恋~
杏莉はなんとなく、天井を見上げた。
その瞬間に、試着室から百合亜が出てくる。
「おぉ、超似合ってる」
「あ、ありがとう。でも私、こんなお金持ってない」
「いいの、私からのプレゼント」
少しサングラスを外すと、ここの店員と目が合ってしまった。
杏莉はため息をつく。
「きゃぁー、もしかして杏莉さんですか!?モデルの!?」
「い、いや...は...い」
店員の声に、周りの店員も集まってくる。
杏莉は右手の人差し指を唇に当てた。
「極秘帰国中なの、愛しい人に会いたくて」
「そ、そうなんですか!?」
「だから、黙っててもらえる?」
ぶりっ子のような口調で、店員を黙らせる杏莉。
その辺の演技は、百合亜には負けないモノがある。
「はい!!そんなのお安い御用です」
「ほんと!?ありがとー!!
じゃあ、お礼にいっぱい服買っちゃおうかな?」
「サインもお願いしていいですか?」
「いいよーじゃんじゃん持って来て!!」
百合亜は杏莉を呆れ顔で見ていた。
「何よ、その顔」
「いや、相変わらずだな...と」
昔から、人懐っこいところが杏莉にはあった。
まさかここまであるとは、百合亜の想像を裏切られたが。
「えっ!?携帯の裏にサインしちゃっていいの!?」
「いいんです、いいんです」
「ほんと?私のサインのせいで、壊れちゃうカモよ?」
「それはナイですよォー杏莉さんッ」
百合亜は試着室の中に入ると、カーテンを閉めた。
そして壁にかかったワンピースから、携帯を取り出した。