誓~天才演技者達の恋~
「店員さん、あのカツラ借りていい?」
「えっ?いいですよ」
意味が分かっていない店員に笑顔を見せると、杏莉は茶髪のカツラに手を伸ばした。
茶髪のカツラを百合亜に被せると、傍にかかっている服に手を伸ばす。
そして百合亜の正面を救急隊員のほうに向けた。
「やだぁー見て“ゆりや”に似合ってる!!」
杏莉はサングラス越しで、救急隊員の木庭と目が合った。
杏莉は百合亜を見ながら、木庭を睨む。
っと言っても、木庭は睨まれていることに気づいていないが。
木庭は“ゆりや”と呼ばれている少女を見ると、首を傾けて走っていく。
「ゆりや、あんた茶髪にすれば?」
「は?ちょっ、杏莉何言って...」
「店員さんも思いません?この服には茶髪って」
「杏莉さんって、ほんとセンスいいですねッ。」
「そう?」
「そーですよ、その服は茶髪とか金髪とか、髪が明るい子に着て欲しくて」
百合亜は安堵のため息をつくと、カツラを取った。
「ゆりや、他に欲しいものある?」
「...ううん」
百合亜が首を振ると、杏莉は店員にお礼を言う。
傍で百合亜はじっとそれを見ていた。
「んじゃ、また来るね」
「お待ちしております。杏莉さん。ゆりやさんも」
百合亜は慣れない名前に戸惑うが、きちんとお辞儀はした。
「どうして“ゆりや”なの?」
お店を出ながら、百合亜は杏莉に聞くが杏莉は首を振った。
「適当」
「その場しのぎってことか」
百合亜は本物の笑顔を見せると、果歩に手を振る。
「ゆりやか。まるで生まれ変わったみたい」
「...百合亜...」