誓~天才演技者達の恋~

百合亜の居場所



「由里亜、ご飯出来たわよ!早く食べちゃいなさいよ!」


「はぁ―い!」



勢い良く階段から降りると、キッチンからはいい匂いが漂っていた。


今日は、由里亜の誕生日らしい。


大好物のアップルパイの匂いがする。



「お母さん!今年の出来具合はどう?」


「去年よりは全然いいわよ。」



由里亜は「そう…」と呟くと、椅子に腰掛ける。

目の前に広がるのは、どれも手の込んだ物ばかり。


彼女は、一つ一つを見て涙をこぼしそうになる。

自分の誕生日は“12歳まで”しか祝って貰っていない。


親がビデオカメラを回して、ケーキを作ってくれて“彼の家族”も一緒になって祝ってくれていた。



「お父さんは、まだなのかしらね?
今日は由里亜の誕生日だから、早く帰って来てって言ったのに」



頬を膨らませながら、由里亜の母親、若葉
(Wakaba)は言う。


由里亜は気まずそうに笑うと、立ち上がった。



「由里亜!?どこ行くの………行っちゃダメよ」

「大丈夫よ、お母さん。自分ね部屋から、携帯取ってくるだけ。

………もう一人にしないから、安心して」



何度目だろう?

“もう一人にしない”なんて言う言葉は。


彼女こそ、今一人になってしまっているのに。


部屋に入ると、机の上から携帯を取る。


握りしめると、机の引き出しを引いた。



「ッ……………!」



引き出しの中には、コレしか入っていない。


彼女は、取り出して電源を入れると、床にソレを落とした。


床に落ち、鳴り響く着信音。


ディスプレイには“日比野卓也”と表示されていた。


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