誓~天才演技者達の恋~
「今の彼女は私よ。
とりあえずね......」
由梨はボソリと呟き、卓也を見つめた。
その視線に気がつくと卓也は、一度振り返り、すぐさま視線を逸らした。
「くぅぅぅぅ!!」
「オマエ、うるさい」
隣に座っている賢斗に言われて、由梨は唇を尖らせた。
賢斗はその顔さえ見ず、携帯をいじっていた。
由梨も黙って、舞台の上を見つめた。
「演戯祭...で人気が出るか決まるらしいな」
「いきなりなによ....
そうみたいよ。
ここのお偉いさんは、白野百合亜の演技を見たかったらしいケド」
由梨は校章を見つめながら、そう呟いた。
『演戯祭』とは...。
明華学園の伝統行事のひとつで、芸能科の人間が演技をし、どこのクラスが一番かを普通科の人間に投票してもらう行事だ。
その演戯祭には全国のテレビ局と報道陣が詰めかけ、素晴らしい演技者がいる時には、世界の有名監督もお忍びで来るらしい。
そして毎年一人だけ『明華賞』という、教師を含めた投票で決まる賞がある。
その賞は、今まで数々の俳優、女優が獲得しており、演技者の卵にとっては夢の夢である。
もちろん由梨も狙っている一人で、それさえとれば白野百合亜を超えられると思っていた。
演戯祭は、脚本も演出もすべてクラス内で。
もちろん業界を知らないに近い一年生には、賞をとることはかなり難しいこと。
それだからこそ、由梨は闘志を燃やしていた。
「私はね、偉業を達成したいの。
卓也と達成したい.....」
賢斗は携帯の電源を切ると、芸能科という証拠のバッチを校章の上につける。
由梨は隣にいる賢斗を見つめた後、前に座る卓也の背中をただ見つめていた。
「ねぇ...?
私たちは、白野百合亜を超えられると思う?」
由梨の呟きに、賢斗は首を振る。
その動きを見て、由梨はため息をついた。
「演戯祭に、すべてをかけるの。
白野百合亜の時代は終わったのよ」