誓~天才演技者達の恋~
賢斗は忘れ物をしたため、ユリアの病室に戻っていた。
看護士や患者から視線を受ける。
特に女子(女性)からだ...。
賢斗はモヤモヤするのを抱えつつ、ユリアの病室の前まで来ていた。
「ねぇ...私に言ってよ...愛してるって」
賢斗はドアを開けるのをためらった。
さっきからは想像できないほどの、大人チックな声だ。
賢斗はゆっくりとドアを開けていった。
「お兄ちゃん...あの人の事...スキなの?」
目の前にいるのは、さっきの弱弱しいユリアでは無く。
凛々しく演技するユリアの姿。
セリフから掴める年齢や特徴を、化粧ナシで衣装なしで演じている。
声優とはまた違う...。
体全部を使って、誰もいないのに訴えていた。
「待って!!行かないで...!!」
視線はこっちに向いているはずなのに、全然気づかない。
賢斗は完全に、入るタイミングを逃していた。
すると傍に咲子が歩み寄ってきた。
「あれ...?早いわね...一時間前に渡したばっかりなのに」
賢斗は目を見開いてユリアを見る。
男性役には多少違和感を感じるものの、それは衣装や化粧が悪いだけであって...雰囲気は負けてない。
なんの台本か賢斗には分からなかったが、ユリアを見ていれば話は理解できた。
「下手なリハビリより、こっちのほうがいいみたいね。」
咲子はそう呟くと、賢斗に手を振り去っていった。
賢斗は何も言えず、ただ黙ってユリアの演技を見ていた。
「白野百合亜はここにいる...」
台本を一回読んだだけで完璧に演じ、台本以上にいいものを完成させる天才。
それが白野百合亜だった。
しかし、賢斗の中ではその天才を越えた。
今まで眠っていた眠り姫が、才能と共に目覚めた。
それが亡き天才を上回ると分かっていたのは、誰一人としていなかった。