誓~天才演技者達の恋~

彼女が演技をする



_______
___五月半ば_______


「ユリア...?」

香織は家の中でユリアを探し回っていた。

無駄に広い菊花邸。

簡単に見つかりそうも無かった。


「........」


その中でも、厳重に鍵を閉じられた部屋がある。

鎖で何十にもされ、簡単には入れない。

ここには数知られた人しか知らないヒミツが眠っている。


「あたしは気づいたのです!失ってはいけない大事な、大事なモノを...」


香織は息を呑んだ。

厳重に閉ざされた隣の部屋は、数多くの台本が眠っている部屋あり、香織も良く出入りする場所だった。

そこから聞えるのは紛れも無くユリアの声で、演技をしているようだ。

賢斗から聞いていたと言っても、香織の想像を遥かに超えていた。


「ねぇ...どうして私なの...?」


香織はドアノブに手をかけるも、開けられずに立ち尽くす。

ユリアの演技は、声だけでも緊張感や空気感が伝わってくる。


「好きって言ってよッ!!私の事、一回でもいいからスキって...スキって...」


香織はユリアの演技に聞き耳を立てていた。

しかし異変が起こり始めた。


「私は記憶喪失で何にも覚えてない...前は、あなたを愛していたハズ...なのに好きになれない....」


香織は違和感を感じた。

そして『マズイ!!』そう思った。


「生まれ変わってしまった私を...まだ好きでいてくれてありがとう...タクヤ....愛しています....」


――バタンッ
――ドサァァァァァァ


香織は急いで部屋を開ける。

そこには、台本に囲まれ、下敷きになって倒れているユリアの姿があった。


< 64 / 252 >

この作品をシェア

pagetop