誓~天才演技者達の恋~
救急車に運ばれたユリア。
香織は長期に入院になる事を見込んで、準備をしていた。
「ごめん和人。準備を手伝わせて」
「いいえ、大丈夫です...大丈夫なんでしょうか...?」
香織はユリアが演技練習で使っていた台本を開いた。
それは数十年前、香織の母が社長の時にタレントが演じたもの。
記憶喪失の女が、記憶前に付き合っていたタクヤという少年を思い出し、思いをぶつけるという高視聴率を出した話だ。
「皮肉なものね...記憶喪失、タクヤなんて単語...この台本もあの部屋に...よろしくお願いするわ」
「香織さんがずいぶん弱気ですね...」
「まだ早いと思っているのよ。私が“本当の親ではナイ”なんて、自分からでさえ告げたくないわ」
香織は台本を本棚にしまうと、ある台本を取り出した。
中身をパラパラと開いて、和人に渡す。
「....?」
「白野百合亜が無名の時の...デビュー作よ」
和人が中身を見ても、どこにも百合亜が言いそうなセリフはない。
香織はある場面の一つを指差した。
「彼女は最初エキストラだった。彼女の母親がモデルでたまたまの手伝い...っていう感覚だったみたい。そしたら師羅監督は目をつけた。
エキストラでは勿体無すぎる演技力を持った天才を」
「それが...百合亜。白野百合亜だったんですね。」
「えぇ、テレビもロクに見ない子は...作者の上、監督の上をいく作品を作り上げていった。わずか4歳で」
和人は声にならない悲鳴を上げると、香織を見て首を振った。
「ありえません...彼女が...その血を持っているなんて」
「そうね。ユリアが...でも受け入れるしか無いわ。彼女に演技しか無いと言うならば...私は全力でサポートする」
香織はそう言うと、部屋から出て行った。
和人は台本しか無い部屋の中心で、白野百合亜のドラマ・映画の数々を思い出していた。
――ピーポーピーポーピーポー
そう遠くも無いところで、また救急車の音が響いていた。
「明日香さん、明日香さん、聞えますか??」