誓~天才演技者達の恋~
卓也はエレベーターで下に降りて行き、周りを見回した。
昔から変わっていない風景に、なんだか落ち着いた。
「あれ...?卓也くんかい?」
帽子を深くかぶって、変装していたつもりだったがバレてしまった。
卓也は騒ぎになる事を確信した。
「そんなに挙動不審にならなくても、騒ぎはしないよ。俺はファンだけど“担当医”でもあるからね」
「んだよぉ。早坂(ハヤサカ)先生か...。」
早坂涼介(リョウスケ)は鼻で笑うと、白衣のボタンを外しながら卓也に近づいた。
早坂は卓也の肩を一回叩くと、満足そうに笑う。
「いやぁー大きくなったなぁー。しかも有名人にまでなってらぁー。ビックリだよなぁ....。
アッ、あとでサイン宜しく。ナースや咲子に自慢するからさ」
いつもの調子の早坂に、卓也は帽子を浅くかぶり笑顔を見せる。
さすがに病院までは記者達はいないようだし、いたとしても風邪です。などで誤魔化せる範囲だろう。
「最近はどうだい?発作とかはさ」
「全然大丈夫ですよ。激しく動いても」
そう答えた後に、卓也は疑問に思ったことを口にした。
その一言に、早坂は耳たぶまで真っ赤にする。
「さ、咲子は...霧島明日香さんの担当医だよ。あとはゆ、....。まぁとにかく、好きとかそんなんじゃないよ」
「演技者に嘘ついても意味ないよ。早坂先生」
「生意気になったな...。龍牙(リュウガ)と一緒だな」
卓也は思い出したように口を開く。
「あいつ元気かよッ!早坂先生の歳離れの姉の子供だろう?俺と同い年のさ!!」
「そうそう、貴島(キジマ)龍牙な。あいつも咲子とのこといじって来るんだぜ。高校2年生なのにガキだよな」
卓也は苦笑いを浮かべると、時計を見た。
時間に急いでいるのも早坂と同じようで、手までは振らないが、きちんと挨拶をして別れた。
「イッ...テッ...」
卓也は胸の辺りの服を掴みながら、小さく呟いた。