誓~天才演技者達の恋~
卓也は胸辺りを掴みながら歩いていく。
「ねぇ、ねぇ、記憶喪失少女の話聞いた?」
「聞いた聞いた。脳外科にいる白野百合亜みたいな面影がある子でしょう?」
「そうそう。白野百合亜が死んだ日、アメリカの玉突き事故に巻き込まれて記憶喪失らしいよ」
「名前も...“ゆりあ”じゃなかった?」
卓也は看護士達の話に立ち止まり、目をパチクリさせていた。
かすかに感じる違和感と、何かへの期待。
卓也はポケットから眼鏡をかけて、ある一言を待った。
「ユリア?ってまさかッ、苗字も白野?」
「そんなワケないでしょう!菊に花で菊花よ。菊花ゆりあ。カタカナでユリアよ」
卓也は口角を上げると、看護士に近づいていった。
話に夢中な看護士達は話を続けていく。
「あの...」
「はい?」
看護士は心で『カッコイイ』と思いながら、芸能人の日比野卓也とは知らずに会話をしていた。
たわいの無い世間話をし終わると、卓也は本題に入った。
「アッ、つい看護士さん達と話し込んじゃった...。お見舞いに来たんですよ。菊花ユリアさんの....病室ドコだか分かります?ここ広くて、迷っちゃいましてね」
「あぁ彼女でしたら。脳外科と精神科の間にある、病室ですよ。彼女...演技も凄いんでしょう?」
卓也は目を開けきり、頷いた。
“演技も凄く、百合亜そっくりなユリア”ただ見たくて、会いたくて...。
卓也は足を運んでいた。
「あれッ?あれって...日比野卓也じゃない?」
「嘘でしょう!?えっ...じゃ、菊花さんは...百合亜なの?」
「でも、死んだんでしょう?白野百合亜は...」
看護士達はワケが分からないと言うように、何か引っかかると言うように、歩いていく卓也らしき背中を見つめていた。
卓也は卓也で、何かを期待していた。
「菊花...ユリア....」