誓~天才演技者達の恋~


「歌原由梨は知らないでしょう?ユリアの存在を」


香織はおどけた様に呟く。

咲子は鼻で笑いながら、白衣を手に持った。


「でも知らなきゃいけなくなる。
ユリアを戻す気でしょう?あの世界に」


咲子の言葉に香織は顔を強張らせた。

「ビンゴ」と呟くと、咲子は白衣を纏った。


「別に止めないわよ。私はあの子の演技力は凄いと思ってるし、記憶喪失になっても才能は消えていない事に驚いてる。

でも忘れないで。
芸能界には、日比野卓也がいる。

そして菊花ユリアはいつか必ず、もう一人の自分の存在に気がつく。
白野百合亜という存在に....。」

「........」


「あなたが抱えているモノの大きさは、私には計り知れない。
でも、それ以上に重いモノを白野百合亜こと菊花ユリアは抱えているハズ。

彼女は大勢の中の、生き残りよ。
絶対に何かを見て、記憶喪失になるほどにショックを受けたに違いないの。
だからこそ思い出した瞬間、精神が崩壊する可能性だって高い。

すべてを知った時、彼女は“騙された人生”を送っていた...と考えるかも知れない」


咲子は診察室の鍵を開けた。

何も言わずに黙っている香織の背中に一言。


「あなたはそれでもいいのね。
もっと重いモノを背負わなきゃいけないわよ」


咲子はそう言うと、髪を束ねながら出て行った。

香織は診察室の中で、ただボーとしていた。


「香織...社長....」


香織は後ろを勢い良く振り返った。

そこには、驚きの顔を隠せていない賢斗の姿。


「都合が悪い事は消える...って?
ユリアを芸能界に....?

どういう事ですか?社長.....

あいつを、日比野卓也に返すと言うのですか?
俺は嫌ですよ????
俺は、白野百合亜と菊花ユリアを愛してる。

奪わないで下さいよ...社長....」




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