誓~天才演技者達の恋~
「掃除したって生き返らない。そう言いたいの?」
麻紀の言葉に卓也は首を振る。
林檎が切られて入っていた皿を流しに置くと、卓也はリビングから出て行こうとしていた。
麻紀は火を止めて、ポケットから出したモノを卓也の前に差し出す。
「.....??」
「白野夫婦とは、鍵を渡しあいっこするまで仲が良かったの。だから今でも鍵を持ってるのよ....。いつ、あの家族がアメリカから帰ってくるか、分からないから」
麻紀は白野邸の鍵を卓也に無理やり渡す。
卓也は困った表情で、鍵を握らされた右手を見ていた。
「私はあなたの母親として、誰と付き合おうが構わない。そう思ってる。婿に行くなら行くで構わない。
でも卓也。
あなたはそれでいいの...?後悔しない?
もし百合亜ちゃんが霊や何かで出てきた時、あなたは堂々と言える?
『幸せだよ。』『百合亜のように大切に出来る人見つけたよ』なんて、言えるの?」
卓也は目を見開いて、自分の母親を見る。
麻紀はそれ以上は何も言わず、コンロの前に立ち、火をつけた。
グツグツという音だけが響く。
さっきから動かない卓也を見て麻紀は、鍋を見つめながら独り言のように呟く。
「私はあなたの百合亜ちゃんへの気持ちが、どれほど大きいか知ってるわ。だからあなたは....あの時“百合亜には言うな!!”って言ったんでしょう?
天国であなたを見つめている百合亜ちゃんは、まだ知らないかも知れないわよ。
ただ、約束を待っているだけなのかもよ。」
卓也は鍵を握り締めて、鍋を見つめる麻紀にお辞儀をした。
あの時のように。
涙目になりながら、お辞儀をした。
『お母さん、この事は百合亜には言わないでッ!
やっと百合亜が夢を叶えられたんだ。やっとテレビにいっぱい出れるようになったんだ!!
僕のせいで、百合亜を困らせたくない。
それに百合亜言ったんだ....僕とテレビに出て、演技したいって!
“叶わないかも知れない”なんて言いたくないんだッ!!
“百合亜より早く死ぬ”なんて言いたくないんだ!!
言いたく、言いたくないんですゥッ!!』