誓~天才演技者達の恋~
眼鏡ケースにはもちろん眼鏡なんて入っていなく、ユリアは焦る。
真っ暗な客席の中、前に移動するのは不可能だし非常識。
舞台の両端には、後ろの客席のためか大きい画面があるが、それすらも良く見えない。
人の動きは見えるのだが、表情が良く分からない。
「眼鏡...あれ?眼鏡....」
何回も鞄の中で手探りを試みるが、やっぱり眼鏡は無い。
眼鏡を探している間に、賢斗達の舞台は幕を開けた。
「あぁ....はじまっちゃった」
_______
____________
「カイ!どうして...ユイはもう死んだのよ?」
「俺の中ではまだ死んでない。ただ、それだけだ」
ユリアは目では演技がどうなっているのか、まったく分からない。
でも声や、観客席まで来る緊張感で、ユリアは感じ取っていた。
「ユラ役もカイ役も凄い」
賢斗の声を聞くだけで、ユリアは笑顔になり、そして感動する。
『私は凄い人に愛されてるのだと』
ユリアは目を見開き、一人一人の表情を見ようとする。
そしてラストに近づくにつれて、客席にも緊張が伝わってくる。
「ユラやカイ、アユトはどうなるのかな?」
_______
____________
由梨は舞台袖から“ゆりあ”と言われた少女を探す。
しかし顔が分からない以上、見つけ出すことなど不可能だった。
賢斗に聞こうと考えたのだが、何となく止めておいた。
「ちょ、卓也くん!?セリフ、セリフッ」
舞台袖から見守るスタッフが、小さく声を出している。
由梨は気になり、舞台を映像で見る。
画面に映っている卓也は演技を忘れ、客席をただジィーと見つめている。
卓也はしばらく動きを止めていると、演技を再開した。
「どうしたのよ...卓也」