誓~天才演技者達の恋~


眼鏡ケースにはもちろん眼鏡なんて入っていなく、ユリアは焦る。

真っ暗な客席の中、前に移動するのは不可能だし非常識。

舞台の両端には、後ろの客席のためか大きい画面があるが、それすらも良く見えない。

人の動きは見えるのだが、表情が良く分からない。


「眼鏡...あれ?眼鏡....」


何回も鞄の中で手探りを試みるが、やっぱり眼鏡は無い。

眼鏡を探している間に、賢斗達の舞台は幕を開けた。


「あぁ....はじまっちゃった」


_______
____________


「カイ!どうして...ユイはもう死んだのよ?」

「俺の中ではまだ死んでない。ただ、それだけだ」


ユリアは目では演技がどうなっているのか、まったく分からない。

でも声や、観客席まで来る緊張感で、ユリアは感じ取っていた。


「ユラ役もカイ役も凄い」


賢斗の声を聞くだけで、ユリアは笑顔になり、そして感動する。

『私は凄い人に愛されてるのだと』

ユリアは目を見開き、一人一人の表情を見ようとする。

そしてラストに近づくにつれて、客席にも緊張が伝わってくる。


「ユラやカイ、アユトはどうなるのかな?」


_______
____________


由梨は舞台袖から“ゆりあ”と言われた少女を探す。

しかし顔が分からない以上、見つけ出すことなど不可能だった。

賢斗に聞こうと考えたのだが、何となく止めておいた。


「ちょ、卓也くん!?セリフ、セリフッ」


舞台袖から見守るスタッフが、小さく声を出している。

由梨は気になり、舞台を映像で見る。

画面に映っている卓也は演技を忘れ、客席をただジィーと見つめている。

卓也はしばらく動きを止めていると、演技を再開した。


「どうしたのよ...卓也」

< 87 / 252 >

この作品をシェア

pagetop