誓~天才演技者達の恋~
素のユリアでは無く
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香織はユリアにココアを差し出した。
「もう、中三なのね。」
ユリアは頷くと、賢斗が演じるドラマの台本を読み始めた。
香織はその姿を見て、優しく微笑むと、鞄からスケジュール帳を取り出した。
新品で封も開けられていないスケジュール帳。
香織はスッとユリアに差し出すと、ユリアは台本を閉じて、スケジュール帳を受け取る。
「菊花ユリアとして、芸能界に出ない?」
「えっ....?」
ユリアは戸惑いの表情を見せた後に、パッと花が咲いたように笑う。
香織はその一瞬の表情に、心奪われた。
女なのに、我が子と言ってもいいのに。
恋をしてしまいそうになる。
恋まではいかなくても、それに近い錯覚に陥る。
「香織さん。ありがとうございます!!」
ユリアはスケジュール帳を抱きながら、深くお辞儀をした。
香織はユリアの頭を優しく撫でた。
これからが大変になることを、誰よりも理解していた。
香織は、ユリア自身を崖の一番先に連れて行った。
誰かが後ろから押せば、ユリアは海にまッさかさまだろう。
落ちれば...深く、真っ暗な海から、地上に戻ってくるのは不可能になる。
「ユリア...頑張ってね。」
「....??はい。頑張ります」
香織は涙を堪えながら、一人の人間としてユリアを抱きしめた。
香織はユリアの母親としてでは無く、芸能プロダクションの社長として、その才能を開花させようと決断した。
「ユリア、演技を楽しみなさい。
誰にも落とされないように」
「はい、分かりました。香織社長」
力強く、凛とした瞳。
誰にも負けない演技への道。
誰にも負けない彼への想い。
少しずつ、ユリアは目覚めようとしていた。