誓~天才演技者達の恋~
ユリアは、ゆっくりと車から降りた。
まだ、相手は来ていないようだ。
「私に出来るのかな...。」
何に対しての不安なのか分からない。
演技は出来る自信はあるし、記憶を無くしているユリアにとって、それしかないはず。
なのに心がポッカリ空いたみたいに、何かが足りないと感じた。
「ユリア」
「.....はい!今日は宜しくお願いします」
ユリアは後ろから突然来た師羅に頭を下げる。
師羅は笑顔を見せると、メイクスタッフまでユリアの手を引く。
「彼女に美星堂の化粧品で、化粧して」
「はい、分かりました」
するといつの間にか、ユリアは大勢の人達に囲まれ、身動きが出来なくなる。
和人に助けを求めようとするが、和人は監督とお話中。
「じゃあ....やりましょうか....」
「えっ!?」
ユリアは無理やりカーテンの中に入れられ、着替えさせられる。
その間を縫うように、メイクさんの手が伸びる。
ユリアはどんどん変わっていく自分に驚く。
「まぁ!!....さすがベースがいいと、違うわね」
衣装さんやメイクさんが声を揃えて、カーテンを開けた。
すると、カーテンの向こう側にいる男性人が歓声を上げる。
「室井くん。香織社長に言っといてくれ。」
「はい、分かりました。休みは今のうち!ですよね」
薄いピンクのパーティードレスを身に纏ったユリア。
カーテンの中には、まだまだたくさんの衣装が並んでいた。
「ユリア。
キミの役者名を教えてくれ」
「..........Yuriaです。
本名は菊花ユリア。菊の花に、カタカナでユリアです。」
「いいんだね。本名じゃなくて」
「今の私と、過去の私。
そして未来の私を掴むために、本名では活動しません」