Pianissimo
気付いたら、先生の大きな手が私の右頬に触れていた。

「――ッ!」

「…神原の髪って、少し茶色がかってるのな。…今気付いた」

「い、いつから起きてたんですか」

先生はきょとんとして少し首を横に傾けてみせる。

「そうだなー…。神原がやけに悲しそうな声で「先生」って言った時にはもう起きてた」

やばい。顔が熱くなっていくのが分かる。

今、きっと私の顔、赤いと思う。

未だに私の頬に触れたままの先生の左手が、熱を帯びてる気がしたが気のせいみたいだった。

これはきっと私の頬が熱を帯びているのだろう。


…先生にもっと触れてほしい。


先生に、いっぱいいっぱい名前を呼んでもらいたい。


先生の、歌が聴きたい。

なんて。


どんだけ我儘なんだろう、私…。


「先生。…歌って」

「また…?」

「うん。先生の声、好きだから…落ち着くの」

嘘じゃないよ。本当にそう思ってる。

本当に本当に、先生の声も、先生が奏でる音も全部大好きなの。

そう、真剣に言えば先生は微笑んで「分かった」と言ってくれた。


「あ、先生。褒められたの嬉しかったんでしょ。顔赤いよ? かっわいーい」

「大人をからかうんでない」

「あだっ」


そこにあった教科書で私の頭を軽く叩いた。

…これ以上馬鹿になったらどうするつもりだ。と目で訴えると、嘲笑うように鼻で笑われた。


「ひっどいなぁ…。生徒の必死な訴えを鼻で笑うなんて酷い先生だ」

「酷くて結構です」

「あ、開き直りやがった」

楽譜を準備している先生は、既に楽しそうで私もそれを見て楽しくなった。

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