Pianissimo
「…終わり。これでいいか?」

パタンとピアノの蓋を閉めて、先生が言った。

もう少し聞いてたら、きっと泣いてしまうんではないかと言うくらい、泣きそうだった。

「はい! 凄く、よかったです!」

笑顔でそう言うと、先生は少し照れくさそうに笑った。

…先生のそんな表情、初めて見た。

無邪気に笑う子供のような幼い笑顔。

さっきから私はドキドキしっぱなしだ。


「この曲な、実は学生の頃に作った曲なんだよ」

「え、そうなんですか!?」

「ああ。確か、お前と同じ高1だったかな」

「その時から音楽が好きだったんですね」

その私の言葉に、少し悲しそうな笑顔を見せ、「そうだな」と言った。


何で悲しそうな顔するの…?

私、何か言っちゃいけない事言っちゃったとか…。

「…Pianissimo」

「え…?」

「Pianissimoだよ。この曲の題名」

「ピアニ…ッシモ…?」

「ああ。失恋した時に作った曲だから、そんな名前にした。ppの意味は“とても弱く”だろ? だから俺の気持、みたいなそんな感じだ」


なんだ…。凄く、安心した。

先生に嫌われるんじゃないかって、怖かった。

いつの間にか、それくらい好きになっていたんだ。


…先生。

その曲、凄く共感出来たよ。

先生の事、好きで好きで辛いよ。


…ねぇ、先生と生徒だからなんて、関係ないよね…?


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