oneself 後編
結局、彼らはもう30分延長して、その後帰って行った。


帰り際、斎藤さんはあたしに名刺をくれた。


仕事用の携帯番号とは別に、プライベート用の携帯番号を書き込んで。


あたしに無理に連絡先は聞かずに、「良かったら連絡ちょうだい」、そう言って。


渡された名刺を見つめながら、考えていた。


もし続けていくとすれば、指名も取らなきゃいけない。


その為に、営業も必要になってくる。


最初の面接の時、指名や同伴のポイントで、時給が変わると言っていたのを思い出す。


でも、お金は今日ともう一日出勤すれば、十分足りる額になる。


もし、後数回で辞めるとしたら。


必要以上に、お客さんと連絡先を交換する必要はない。


斎藤さんには、お礼の気持ちくらいは伝えたいけれど…


正直、今のあたしには、お客さんに営業をかける姿は想像出来なかった。


あたしは自分の名刺ケースの一番後ろに貰った名刺をしまうと、待機用のソファーに向かう翼の後ろ姿を追いかけた。


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