oneself 後編
テーブルの上には、セット料金に含まれている、無料ボトルが置いてある。


あたしはそれを掌で指しながら尋ねた。


「お飲み物はこちらでよろしいですか?」


「あ、はい」


何度もおしぼりで手を拭き、どこかソワソワとしている彼。


「ミライさんも、何か好きな物を頼んで下さい」


ブランデーの水割りを作っているあたしに、彼は眼鏡をクイッと上げながら言った。


「え、いいんですか?」


「高いものでなければ…」


そう言って、恥ずかしそうに頭を掻いている。


経験のないあたしから見ても、彼がこういう場に不慣れな事は、察しがついた。


「じゃあウーロン茶を頂いていいですか?」


そう尋ねたあたしに、彼は「どうぞ」と、快く言ってくれた。


運ばれて来たウーロン茶と、ブランデーの水割りで、乾杯。


彼はそれを一口飲んだ後、予想通りの事を口にした。


「こういうお店は慣れてなくて。緊張するなぁ…」


運悪くキャッチに引っ掛かり、断り切れずに来てしまったのだろうか。


彼の気弱そうな人柄に、そう思わずにはいられなかった。


「あたしも今日が2回目なんで、緊張してます」


実際、気難しそうな客ではなく、彼のような客で、少し緊張はほぐれていた。


でも、彼を少しでも安心させる為、あたしはそう言った。


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