oneself 後編
給料日明けの金曜と言っても、お店が最も忙しくなるのは、もう少し遅い時間だ。


待機用のソファーに座っていると、明らかにソワソワした様子の女の子が、あたしの隣にいた。


今までに見た事のない顔。


ポッチャリとした体格に、ストレートの黒髪、化粧っ気のない彼女は、お店の貸し衣裳を着ていた。


新しい女の子なのだろうか?


人の事を言えた義理ではないが、彼女はこういう場所にひどく不釣り合いだった。


入口から聞こえるスタッフの声に、あたしも彼女もびしっと背筋が伸びる。


スーツ姿のサラリーマンの4人組。


席に案内された彼らを目で追いながら、おそらくその席に着く事になるだろうと思っていると、案の定、スタッフがあたしを含めた数人の女の子の名前を呼んだ。


さきほど鏡の前にいた二人と隣の子、そしてあたしの4人。


おのおのが立ち上がって、スタッフについて席まで向かう中、あたしは今日初めての仕事に、緊張していた。


スタッフに指示された通り、客と女の子が交互になるように座る。


「初めまして」


他の女の子が名刺を手渡すのを見て、あたしも慌てて名刺を探した。


さきほど隣に座っていた子は、「今日が初めてで、まだ用意してないんです」と、客に伝えていた。


案内所で5000円ポッキリと聞いてやって来た彼らは、「何か頂いていいですか?」と言う女の子の声に、「5000円超えるやん」と、返した。


結局、20分の交代時間まで、あたし達が飲み物を頼む事はなかった。


誰一人、場内指名を貰う事なく、総入れ替えで次の女の子と代わる。


待機用のソファーに戻って来るなり、「ケチな客!」と、一人の女の子がぼやいていた。


色んなお客さんがいるもんだと、あたしは驚いていた。


< 108 / 244 >

この作品をシェア

pagetop