oneself 後編
あたしは友達から、鈍感だと言われる。


自分では、そんなつもりはないけれど。


だからといって、自意識過剰でもない。


でもこの胸騒ぎは、あたしの気のせいではない気がした。


まだ2回しか会った事はなくて。


しかもお店の中だけなのに。


普通なら考えられない。


でも前田さんは、女慣れしているような人ではなかったから。


もし、波多野さんの言っている事が、本当だったら…


照れたようにはにかむ前田さんの姿を見つめながら、あたしはこの前のように笑えなくなっていた。


そんな時、スタッフがあたしの名前を呼んだ。


「ミライさん、8番テーブルお願いします」


この席を離れられる事を、少し嬉しく思った。


指名してもらったくせに、こんな風に思うのは、失礼だけど…


「すいません、ちょっと失礼します」


向かった先には、どしっとソファーに座る望月さんの姿。


「望月さん!」


あたしがそう叫ぶと、彼は自分の隣に座るよう、掌で促した。


「名前覚えててくれたんや」


「もちろんです!」


正直、今まで付いた全てのお客さんの名前を、覚えるどころか、聞いてもいない席だってあった。


でも、望月さんは、何か特別だった。


「ウーロン茶でええか?」


この前の事を覚えてくれているのは、望月さんも同じ。


乾杯を済まし、この席の落ち着いた雰囲気に、あたしはホッとしていた。


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