oneself 後編
「続ける事にしたんやな」


彼はそう言って、煙草に手を伸ばす。


あたしはすかさずライターを取り出し、口にくわえた頃を見計らって、火を差し出した。


「ありがとう」


白い煙が天井に上っていくのを見ながら、この人の煙草も嫌いじゃないと思った。


「もう指名入ってるんやって?邪魔して悪かったかな?」


そう言って、申し訳なさそうにする彼の視線の先には、別の客につくヒナタさんの姿があった。


「いえ、またお話出来て嬉しいです」


彼はヒナタさんのお客さんで、あたしはただのヘルプ。


時給に関わるポイントには、何のメリットもない。


それでも、またこの席に呼んでもらえた事を、有難く思った。


水曜日の帰り際、店長が言っていた事を思い出したから。


彼は、この店1番のお客様。


指名するヒナタさんだけではなく、店長やスタッフ、ヘルプの女の子にも良くしてくれる。


時には客の立場から、様々な事も教えてくれる。


女の子の教育に関しては、俺よりもあの人に聞けばいい。


…なんて、店長は言っていたくらいだ。


でも店長が言うには、彼は常識のない女の子は嫌いで。


いきなりのタメ口や、馴れ馴れしい接客をすれば、「もう二度とつけないでくれ」と、いう事もあるらしい。


「最近の子は、敬語もろくに使えない」


そう店長はぼやいていた。


ナンバー1のヒナタさんは忙しく、彼はヘルプの女の子と過ごす時間の方が長い。


最近、長く勤めていた子が数人が辞め、お店には新人の子が多かった。


そんな中、彼が久々にイイ子が入ったと誉めてくれたのが、何故かあたしだったのだ。


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