oneself 後編
席に戻ると、波多野さんと翼がキャッキャキャッキャと騒いでいるのと対照的に、押し黙る前田さんの姿があった。


「どうしたんですか?」


そう尋ねると、彼は水割りをグイっと飲み干した。


あたしがお酒を作っていると、彼は小さな声で呟いた。


「ミライちゃんって人気あるんやな」


「えっ?」


さきほどの様子とは違って、どこか暗くて低い声。


望月さんの事を言っているのだろうか?


あたしは彼にはヘルプでついただけで、人気なんて始めたばかりであるはずもない事を、彼に説明した。


「じゃあ、指名したのは俺が初めて?」


少しだけ声のトーンが上がる。


初めての指名は、斎藤さんだ。


でも、それを彼に説明する必要もない。


「うん、初めて指名してくれたのは、前田さんやで」


あたしは作り笑いで、そう答えていた。


それを聞いた彼は、分かりやすいくらいに、機嫌を取り直したようだった。


彼がこの前に見たDVDの話を楽しそうにするのを、あたしはひどく冷めた気分で聞いていた。


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