oneself 後編
エレベーターで2階に上がる。


降りてすぐの、真っ黒で重たそうな扉。


その金色の取っ手を、哲平はゆっくりと引いた。


客のカラオケ、ホストのコールが聞こえてくる。


トイレ横の狭い通路を抜け、フロア全体が見える位置まで来た時。


「いらっしゃいませ~!」


店内にいるほぼ全員のホスト達が、こちらを向いて一斉に声を上げた。


活気に溢れているというか、何というか、キャバクラの雰囲気とはまた違う。


哲平に案内された席に腰をおろすと、あたしはキョロキョロと辺りを見渡した。


白を基調とした店内。


テーブルもソファーも、壁の色も全て白で。


照明はブルーの光。


すごくお洒落なお店だった。


ここで、哲平は働いてるんだ。


席に着けるか分からない。


そう言っていた哲平だが、何か本のような物を手にして、こちらへ戻って来る。


あたしの隣に座ると、「今日は初回やし、2時間2000円のフリードリンクな、これアルバム」、そう説明して、翼にそれを手渡した。


エレベーターの中で、名前とこういうお店は初めてかと、翼に尋ねていた哲平。


慣れた様子の翼と、翼にばかり笑顔を向ける哲平。


あたしに怒っているかも知れない哲平。


何だか、ひどく疎外感を感じた。


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