oneself 後編
「ちょっとごめんな」


そう哲平が言ったのは、あれから20分ほどが経った頃だった。


あたしを気遣いながら席を立つと、翼に、「聖夜さん来るまで、もうちょっと待っててな」と言い、別の席へと移動していった。


哲平の行った先には、同年代くらいの女の子。


あまりジロジロとは見れないけれど、ごくごく普通の女の子のように見えた。


それでも哲平が戻ってくると、待ちわびていたように笑顔になったその子を見ると、哲平の指名の客だろうという事は、何となく予想出来た。


「未来ちゃん、久し振り!」


哲平と入れ違いでやって来たのは、コウキさんだった。


そう、哲平をホストの世界に誘った張本人だ。


この人と出会わなければ…


未だにそんな風に考えてしまう。


「哲平すごいで、新人ではトップやわ」


そう言ってあたしに笑顔を向ける彼。


そんな事を聞いたって、嬉しくも何ともない。


どうせなら、全く指名も取れずに。


俺には向いてない。


…なんて、嫌になってしまえばいいのに。


やっぱりそんな風に考えてしまうあたしは、自分勝手なのかも知れないと思った。


コウキさんが言うには、新人の中では1番の売上で、指名や同伴も群を抜いているそうだ。


あたしに仕事の話はしない哲平。


でもやっぱり、哲平はどこへ行ったって愛される人なんだ。


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