oneself 後編
それからの何分間かは、あたしは心ここにあらずで。


コウキさんには申し訳ないけれど、話の半分も頭に入ってこなかった。


哲平の席だけでなく、店内の色んな席を眺めた。


ホストと客の距離は、キャバクラよりも近くて。


時には、頭を撫でたり、肩に手を回したりするような場面もあった。


その全ての席で、恋愛感情が溢れているような気がした。


翼が言っていた事を思い出す。


「色も枕も、ホストの方が余裕でやってるよ」、と。


あたし達が相手をするのは、どちらかと言えばだいぶ年上の男性。


中には若い人もいるけれど、そういうお客さんはたいてい大人数で来て、その場だけを楽しんで帰って行く。


とにかく、恋愛対象にすらならない。


勿論、抱かれたいなんて思うはずもない。


でもホストの場合、年も近くて、それなりにかわいい子が相手で。


中にはそうじゃない客もいるかも知れないけれど、圧倒的にそういう方が多くて。


リアルに恋愛が始まってもおかしくはない。


勿論、そこに体の関係があったとしても。


あたしも前田さんに、そういう営業をしている。


自分の事を棚に上げて、相当自分勝手かも知れない。


でも、哲平がそういう事をしているかも知れないと思った時、どうしようもなく不安になった。


さきほどとは、別に席に移った哲平。


その席にいた客は、昔、幸子と通りかかった時に、哲平に腕を絡ませていた女性だった。


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