oneself 後編
哲平が席に戻って来たのは、お店に入ってもうすぐ2時間が経とうとした頃だった。


初回の2時間が2000円。


延長するなら、飲み物代は別だが、それ以降も2時間2000円で加算されていくというシステム。


キャバクラに比べると、そこの料金設定は安いなと思う。


そして哲平が戻ってすぐに、聖夜さんが登場した。


「ごめん、遅くなって」


彼のハスキーな声と一緒に、フワリと良い香りがする。


アルバムよりも、実物の方がカッコイイ。


普段は勝気な翼も、少し緊張しているようだ。


聖夜さんは大人で、話し方も動作も、全てが女性の気持ちを掴むような、そんな魅力的な人だった。


翼が、「延長しよ」と言い出したのは、言う間でもない。


楽しそうに聖夜さんと話す翼とは対照的に、あたしと哲平の間には、何となく重たい空気が流れていた。


哲平の顔を、真っ直ぐに見れなかった。


哲平はホストなんだと、今までにも何度とショックを受けた。


でも今日見た哲平は、もうあたしの知らない男の人のようで。


あたし以外の女の子に、優しく笑いかける笑顔も。


あたし以外の女の子に、優しく触れるその手も。


別人なんじゃないかと思うほどに、遠い人のようだった。


そう、思いたかったのかも知れない。


こんなにも苦しくて、悲しくて、嫉妬に狂いそうになるくらいなら。


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