oneself 後編
1部の営業が終わり、客はあたしだけになった頃。


哲平はご飯を食べに行こうと言った。


始発までの時間を、気遣う気持ちもあっただろう。


気分が落ちているのを、気付いてもいたのだろう。


あたしは、「誰かに見られるとやばくないの?」と尋ねた。


哲平は優しくあたしの頭を撫でて、「大丈夫」と、笑った。


あたしは単純で。


やっぱりあたしは彼女で、特別なんだって。


嬉しくなった。


良く考えてみれば、客とアフターをする事もある訳で。


あたし以外の誰かと、そんな風に過ごす事もある訳で。


哲平のプライベートを過ごす事とは、全く意味が違う事に…


あたしは気付けなかった。


昔は、お店に来た事がなかった。


今は、お店に来る日が増えた。


あたし達の関係を知らない人からすれば、あたしは哲平の客のうちの一人で。


あたしはいつの間にか、哲平の彼女でもあり、客でもある。


そんな立場になっていた事に…


気付けなかった。


この日をきっかけに、哲平は暇な日は、あたしを誘うようになった。


あたしが会いたい時は、翼と一緒じゃなくても、行くようになった。


とにかく一人で行った時に限っては、哲平はお金を出してくれた。


お金を出さなくていい事だけは、あたしが特別な証だった。


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