oneself 後編
その日、翼は聖夜さんの為にシャンパンをおろした。


「そんな無理せんときいや」


そう言ったあたしの言葉は、まるで届いてないようだった。


もしかしたら、聞こえないふりをしていたのかも知れないけれど。


1本2万円ほどの1番安いシャンパン。


それでも3本で6万円だ。


シャンパンコールに合わせてはしゃぐ翼は、何だか痛々しかった。


その日、あたしも初めて、哲平の為にシャンパンをおろした。


2本で4万円。


幸い財布の中には多めに入っていたし、貯金も貯まってきていたので、金銭的には支障はなかった。


翼にこれ以上無理をさせたくなかったのと。


ホスト達の「未来ちゃんも!」と煽る声に負けてしまった。


哲平はそんなあたしを見て、嬉しそうに笑っていた。


何だか、複雑な気分だった。


閉店時間も近づいてきた頃。


相当酔っ払っている様子の翼は、聖夜さんの隣で泣いていた。


何を話しているのかは、大音量で流れる音楽のせいで、全く聞こえなかったけれど。


たまたま音楽の切れ間に聞こえた翼の言葉は…


「男にとって、枕なんて簡単な事だよね」、だった。


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