oneself 後編
今までの翼の話から、あたしが勝手に思っているだけだけど。


きっと最初は、翼とハル君の間には愛情があった。


ハル君にとって、翼は初めての客だった。


田舎から出て来たばかりで、写真ではあどけない表情だった彼。


口下手で、照れ屋で。


言葉がなくたって、体の関係がなくたって、そこにはハル君の精一杯の気持ちがあったんだと思う。


それは翼が、1番感じているんじゃないだろうか。


でもいつの間にか、彼は色や枕を覚えて。


売上をあげる事にも、真剣になって。


さっき見かけた彼は、もうすっかりホストの顔をしていた。


「男にとって、枕なんて簡単な事だよね」


翼の言葉が、やけに耳に残った。


そう、あたし達が客にそれをするのと、ホストが客にそれをするのは、全く重みが違うんだ。


若い客、綺麗な客、そして自分に好意を持っている客。


年頃の男の子は好きな女性の為に、それだけは守っていけるものなのだろうか。


色営業をしている哲平。


枕は…?


広がっていく不安を掻き消すように、あたしはグラスに残っているカクテルを、一気に喉の奥に流し込んだ。


閉店を告げるラストソングを、どこかの席でコウキさんが歌っていた。


< 149 / 244 >

この作品をシェア

pagetop