oneself 後編
「お客さん、超ラッキーだよ」


翼がグラスについた水滴を拭うのを見て、あたしも慌てておしぼりを探した。


翼の言葉に「何で~?」と二人の揃う声を聞きながら、あたしも何とか1つ目の仕事をこなす。


「お兄さんの隣の子ね、今日が初めてなんだよ」


「えっ?」


そんな二人の視線に、あたしは思わず下を向いた。


「こらミライ、下向くな!」


翼の言葉に肩をすくめると、男二人から一斉に質問される。


「このお店が初めてって事?」


「今までこういう仕事した事ないの?」


どうしよう…


こういう場合、何と答えたらいいんだろう?


正直に言う方がいいの?


それじゃがっかりされるの?


結局、あたしの答えを待つ彼らの視線を感じながら、いっぱいいっぱいになったあたしは、正直に答える事にした。


「えっと、ホンマにこういう仕事は初めてです…」


バックでは、大音量で流れる音楽。


今のあたしの声で、聞こえたんだろうか。


それくらい、一瞬の間が怖かった。


けれど二人の反応は、意外にもがっかりしたようなものではなかった。


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