oneself 後編
歌い終えた後、哲平は首をひねりながら、「う~ん」と、唸った。


聞けば、客に歌って欲しいと言われたが、歌った事がないので断ったそうだ。


「練習したいし、何回か歌っていい?」


そう言って哲平は、あたしの返事を聞くまでもなく、リピートボタンを押した。


大好きな哲平の、低くて甘い声。


すんなりと耳に届いて、胸に響いてくる声。


でも、この歌はあまりにも悲しくて、切なくて…


あたしはモニターから、目をそむけた。


そしてそれを歌う哲平の顔を見つめながら、その時の事を考えていた。


あたしと哲平が、別れる時の事を。


哲平は泣いてくれるの?


笑顔で別れの言葉を言うの?


そんな日はないと信じたいけれど。


あまりにも惹きつけられる歌詞と哲平の歌声に、あたしの気分は沈んでいった。


哲平は、何も思わないのだろうか。


あたしと別れる時の事を考えて。


そんな日が来ないようにと。


もっとあたしを大切に思ってくれればいいのに。


それならその歌を、どれだけ歌ったって平気だよ。


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