oneself 後編
「えっ?」


目を丸くするあたしの反応を予想していたかのように、翼は目を細めて微笑んだ。


そして順を追って、今のお店には辞めると伝えた事、今後働くお店の面接はもう済んでいる事を明かした。


あまりにも淡々と話す翼に、あたしはただただ相槌を打ちながら聞いていた。


家賃の支払いや、ハル君のお店での支払い。


とにかくもっとお金が必要だと翼は言った。


翼なりに考えた結果なら、仕方ないのかも知れない。


でも一人で決める前に、相談くらいして欲しかった。


でも…


相談したら、反対される事を分かっていたから。


翼は何も言わなかったんだよね?


そして翼は、隣の席に聞こえないように、すごく小さな声で…


「新しいお店は、ホテヘルなんだ」


そう言った。


「え、ちょっと待って…」


あたしは混乱する頭の中を整理しながら、眉間に皺を寄せる。


ホテヘル?


キャバクラじゃなくて?


あたしはさっきよりも一層静まり返ったこの席の空気に耐えきれなくて。


「何それ…」


そう声を絞り出すのが精一杯だった。


でも翼は…


何も言わないで、というように、小さく首を横に振った。


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