oneself 後編
そんなあたしの視線に気付き、幸子がこちらを向く。


「相変わらず、哲平歌上手いな」


そう言って、幸子は目の前のグラスを手に取り、グイっと数口飲むと、少し乱暴にテーブルの上に戻す。


「そうやな」


モニターに流れる歌詞を目で追いながら、チラリと横目で哲平を見つめる。


みんなから手拍子をされ、哲平はご満悦のようだった。


「徹と別れてん」


その時、耳元で聞こえた声。


グラスに伸ばしかけた手が固まる。


ちょうど、哲平がサビの部分を高らかと歌い上げていた。


「昨日、別れた」


そう言って、幸子は昨晩の徹との出来事を、ゆっくりと話し出す。


社会人の幸子。


学生の徹。


合わない時間の中で、ストレスが増えていった幸子と、いつまでたっても能天気だった徹。


でも、徹が幸子に惚れているのは、誰が見ても分かったし。


この二人が別れる時は、幸子が徹を振る時だと思っていた。


でも幸子は、「あたしが振られた」と、言った。


優しい徹に甘えて、自分がわがままになってしまって。


いつも文句を言ってばっかりで、怒ってばっかりの幸子に、徹が疲れてしまった、と。


こんな風に素直に話す幸子を、今まで見た事がなかった。


少し酔っているのかも知れない。


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