oneself 後編
今日の朝方にあった電話。


どんな時でも涙を見せなかった幸子が、あれほど取り乱していたのは、徹と別れたからだったんだ。


そして今も、幸子の目は薄っすらと潤んでいた。


「まぁ、そんな感じ」


気持ちを切り替えるべく、膝をポンと叩きながら、幸子は言った。


気が強くて、しっかり者の幸子。


こんな所で泣いてしまうのは、嫌だろうから。


あたしはそれ以上、何も言わなかった。


延長の1時間も、後少しで終わる。


最初はマックスに入っていた予約も、終わりの時間を気にしてか数曲になっている。


一時は盛り上がるアップテンポの曲ばかりだったのが、落ち着いたバラードに変わった。


木部ちゃんの歌に耳を澄ますと、やっぱり別れの曲だった。


「幸せいっぱいのくせにね」


幸子が皮肉交じりに呟いた。


そう。


幸せな時は、そんな歌詞が気にもならないんだ。


気になってしまうあたしは…


今、幸せじゃないのかな。


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