oneself 後編
「最近寒いな〜」


ジャケットの袖を引っ張って、哲平は肩をすくめる。


「うん」


あたしもスカートから出る足をさすり、肩をすくめて見せた。


静かな住宅街。


民家からもれる灯り。


遠くで輝く月も、凛とした空気も、何もかもがいつもとは違って。


あたしは昔を思い出して、少しだけドキドキしていた。


哲平は今、何を思っているんだろう。


哲平の方を盗み見ると、学校の校舎の方を眺めている。


あたしと同じ気持ちでいてくれるといいのにな。


その時、哲平が肩からかけていた小さなポーチサイズのバッグを、くるっと回して膝の上に置いた。


携帯でも取り出すのだろうか。


こうしている間も、哲平の携帯には沢山の客から連絡がきているはずだ。


でもこんな時間を過ごしている時くらいは、仕事の事は忘れて欲しかった。


哲平はチャックを開けると、中をゴソゴソと探っている。


あたしはその光景から目をそらし、さきほど哲平が眺めていた学校の校舎の方に視線を移した。


哲平は昔からモテる人だった。


あたしはいつだって不安だった。


そう、今でも。


でも、あの卒業式の日。


あたしは何を思ったんだっけ…?


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