oneself 後編
ああ、遅かった…


どんくさいな、あたし…


煙草の先を見つめながら、小さく唇を噛んだ。


そんなあたしをチラリと見た斉藤さんが、慌てて煙草を灰皿に押し当てた。


「ごめん、ついつい癖で、自分で点けてしまった…」


「えっ…?」


まだまだ吸い始めたばかりだった長い煙草は、灰皿の上で真っ二つに折れてしまっている。


そしてもう一度、胸ポケットから煙草を取り出した斉藤さん。


「ミライちゃんが点けてくれる?」


ニッコリと微笑む斉藤さんにつられて、あたしにも笑顔になる。


「消さんでもいいのに、もったいないなぁ…」


ライターなんて使った事のないあたしは、震える手で斉藤さんの口元にある煙草に火を運んだ。


全然スムーズじゃない。


お客さんにまで気を使わせて。


それでも、あたしにとっては初めての事だったから。


斉藤さんは、「あ、いつもよりおいしい」と、笑って言ってくれた。


それからは斉藤さんの分のブランデーは、あたしが作った。


「ゆっくりでいいよ」と言ってくれる、斉藤さんの心遣いが有難かった。


初めてのお客さんが、彼で本当に良かった。


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